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2022年 11月 14日
梅きゅうりを食べたら想像以上に酸っぱかった。固まっていたら「どうしました?」と顔を覗き込まれ、絞り出すように「酸っぱい」とだけ言った。それから私がなにを食べるにも「気をつけてください」とからかわれ、それで好きになった。
ーーー その一言で好きになった、なんて、たぶん嘘で、すでに好きになる線路には乗っていたのだろうと思う。一言で背中を押され、スタートを切っただけなのだ。 三年くらい前、当時付き合っていた恋人と答え合わせをしたことがある。何月何日、どの場で会ったとき、自分がどのように感じていたか、半年ほどの時系列で書き出したのだ。まず私がGoogleドライブでドキュメントを書いて共有した。彼は面白がって、私の記事を軸にして自分の気持ちを書いてくれた。それで判明したことはいくつもある。私は彼に対して、ずっと「嫌われているのだろうか」と思っていたが、彼は私に対してほとんど一目惚れで、懸命にアプローチしてくれていた。「霞さん鈍すぎだよ」と呆れられた。 線路に乗っているという自覚が、どうしても持てない。「好きかも」「相手は自分のことをどう思っているのだろう」「距離を詰めてみよう」と手順を踏むことが、できない。「好き」のスタートを切られたら、そのままゴールまで突っ走って行ってしまう。自分の気持ちも、相手の気持ちも、わかろうとしないままで。 ーーー 梅きゅうりを食べたばかりで告白し、消化しきる前に振られた。彼はすごく大人で、「また飲みに行きましょう」と笑ってくれたけど、たぶん「また」はないのだろうということは、私にもわかった。 #
by kasumi-tkmt
| 2022-11-14 23:39
2022年 06月 07日
私には色がわからない。
色弱ってわけじゃない。学生の頃、授業で「鉛筆デッサン→木炭デッサン→油絵」と進むプログラムがあった。しかし私は油絵を描くことができなかった。理由はわからない。とにかくどうしても描けなかった。困って悩んで、デッサンは大好きだったから、講師に「木炭デッサンを、ひとつのモチーフから別の構図で三枚、完璧に丁寧に上げるから、一枚の油絵を免除してくれないか」と交渉し、許可された。昼休みと放課後に居残って、必死で三枚のデッサンを上げた。なんで霞ちゃんだけ、と同級生から怪訝な目をされたが、無視した。単位が欲しかったからだ。 二~三回同じことを繰り返した。ある日の合評の後に講師に呼び出され「高松さん、油絵を描いてほしい」と告げられた。一枚だけでいい。じゃないと単位を上げられない。黙っていると、試しに白と黒の二色で描いてみなさいと提案された。一番太い白と黒のチューブの絵の具を購入し、パレットに絞り出し、オイルで濡らし、しぶしぶ筆を動かした。そうしたら白と黒の林檎が、白と黒の檸檬が、白と黒の緑の瓶が、白と黒の紫のテーブルクロスが描けた。先生、描けました。呆然としていると講師はホッとした顔で言った。「あなたは物を陰影に翻訳して理解しているんだ」 それが、一般の人間と私との「ズレ」に気づいた、最初の出来事である。同じようなズレはたくさんある。自然のよさがわからない。家族がわからない。恋愛がわからない。生と死だってわからない。ふとした瞬間に自分が川を越えてしまうだろうことがわかっていて、手を震わせながら生きている。我々は白と黒の世界で生きているわけじゃない。様々な色彩に囲まれて、感情を移り変わらせて、この世界に存在している。それはわかってる。でもどうしても、私には色がわからない。理解することができない。いつどこで世界とズレているのか、わからない。とても怖い。怖くてしかたない。 #
by kasumi-tkmt
| 2022-06-07 22:15
| 創作
2021年 12月 10日
「神様」という短編小説を書いたことがある。十九才の時だ。 大学の文芸ゼミで小説を書くという課題が出て、それで書いたのだった。家族が神様に連れ去られるという物語だった。主人公は三十五才の主婦で、まず娘が「神様に会いに行くの」と言って消え、次に夫が「神様のとこに行くことになった」と言って消える。主人公はおそらく神様の正体を知っていて、でもそれは明かされない。家族を神様のもとに行かせまいと口論になるのだが、結局あっさりとふたりは消えてしまう。話が進むにつれ、主人公の幼少期に母親が消えていたことがわかる。でもそれについても、あんまり説明がない。最後はこんな風にして終わる。 <私は寒天の中にいる。地上地下問わずに満ちていく寒天は、私の周りにもぎっしりと詰まってしまって、動こうにも動けない。どうにもこうにもならない。きっと私がいなくなれば、私の形にぽっかりと空いた寒天が残るのだろう。氷皿みたいに。愉快だ。林は鳥と地蔵を抱えながら、ざわざわをやめない。やめろと言っても、やめない。私は突っ立ったまま、ざわざわにまみれていく。まみれていきながら、そうしてそのままそこから、動けなくなった。> 寒天は、寒い空ではなくゼラチンのことだ。ゼミの先輩に「これわかりますか」と聞いたら「わからないけど、いいと思う」と言われた。 好きな人から「結婚したいですか」と聞かれた。恋人って意味じゃない。いまの私の片想いの相手だ。なんの気なしに聞いたのだろうけど、私としては試されているようで怖くて、慌てて「家族が欲しいです」と言ってしまった。あ、これ答えになってないな、と思って、えっとそうだな、家族、いないのでと口走る。かなり戸惑った顔をされた。 「ずっといないんですか、いたけど、いないんですか」 「いたけど、いないです」 それでその話は終わった。終わらせてくれたんだと思う。 #
by kasumi-tkmt
| 2021-12-10 00:48
| 創作
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